理念の土台になるもの

「御社の経営理念をつくった背景を教えてください。」

私は、経営理念づくりのお手伝いをするとき、最初にこの質問をします。

社長は、会社のあるべき姿や目指す方向を話してくださいます。
そして、創業時の苦労や人生を変えた出会いなどもお聞きします。

その中で、私はこんな質問をします。
「社長ご自身の人生で、大切にしていることは何ですか?」

この質問に、すぐ答えられる社長は意外と多くありません。

中小企業では、社長が大切にしていることと、会社が大切にしていることは重なることが少なくありません。

そこで、お話を一つひとつ整理していくと、その社長が本当に大切にしている価値観が少しずつ見えてきます。

私は、その価値観こそが社長の人生理念であり、会社の経営理念の土台になると考えています。

一つの食卓が経営理念になった

ある飲食店の創業者は、農家の六男として育ちました。
暮らしは決して豊かではありませんでした。

しかし、お祭りの日だけは特別でした。
家族みんなで食卓を囲み、ご馳走を食べる。その時間が何より幸せだったそうです。

幼い頃に感じたその幸せは、大人になっても変わることはありませんでした。

「美味しい食事で多くの人を幸せにしたい。」

この想いがあったからこそ独立を考え、飲食店で修業したのです。

現在の経営理念には、食を通じてお客様に喜んでいただきたいという言葉が掲げられています。
しかし、その言葉の原点には、子どもの頃に家族と囲んだ温かな食卓があります。

経営理念だけを読んでも、その想いは伝わりません。
しかし、その背景にあるストーリーを知ると、なぜその理念なのかが自然と理解できます。

人生理念が組織の軸になる

以前、建設会社の社長と経営理念づくりをご一緒したときのことです。

創業までの歩みや、これまでの出来事を一つひとつ振り返りながら、「社長ご自身が人生で大切にしていること」を一緒に整理していきました。

すると、あるキーワードにたどり着いた瞬間、その社長の表情がパッと晴れました。
そして、何度も何度も頷きながら、

「これを大切にしてきたんだ、俺は。」
と、ぽつりとつぶやかれたのです。

その後、社長は経営幹部に、自分が人生で大切にしてきたことを語りました。

経営理念という言葉だけではなく、その背景にある人生理念を共有したのです。

すると、幹部は社長の判断基準や価値観を深く理解し始めました。
会社が何を大切にし、何を判断基準にして経営していくのか。

その軸が共有され、経営幹部の間に一体感が生まれていったのです。

理念は、言葉を共有するだけでは組織は変わりません。

その言葉が生まれた背景や、社長が人生で大切にしてきたことを共有して初めて、会社の価値観として根づいていくのです。

理念は語り続けてこそ文化になる

立派な経営理念をつくっても、社員が知らなければ存在しないのと同じです。
一度説明しただけでは、なおさら伝わりません。

だからこそ、社長は理念を語り続ける必要があります。

もちろん、理念の文章を何度も読み上げることではありません。

その理念が生まれた背景をストーリーとして語ることです。

・自分は何を大切にしてきたのか。
・なぜその価値観を持つようになったのか。
・どんな経験が今の経営につながっているのか。

そのストーリーを繰り返し語ることで、社員は理念を自分事として受け止められるようになります。

そして、「社長が大切にしていること」が、「会社が大切にすること」へと変わり、やがて組織の文化になっていきます。

経営理念が浸透すると、社員は仕事のたびに社長へ判断を仰がなくても、「この会社ならどう考えるか」「何を優先すべきか」を基準に、自ら考え、行動できるようになります。

つまり、経営理念が浸透することは、社員が指示を待たずに仕事ができるためのベースになります。

伸びる会社の社長は、理念を語り続けます。

理念という言葉だけではなく、社長が人生で大切にしてきたこと、その理念が生まれたストーリーを語り続けるのです。

その積み重ねが会社の価値観を育て、判断基準を共有し、自ら考え行動する組織をつくっていくのです。