「知らぬ間に十二指腸潰瘍が治っていたのには、驚きました」とH社の社長が語ってくれました。

H社の社長は、三代目です。
先代が築き上げてきた会社をさらに発展させようと、がんばっていました。
会社を発展させるためには、まず売上・利益を伸ばすことが必要だと社員にも強いていました。

社員の退職が社長を変えた

売上を伸ばそうと、社長は社員を叱咤激励し、残業時間も増えていったのです。
その結果、社員は疲弊し退職者が続出しました。

さすがに、社員の退職が相次ぐと経営はできません。

そうなって始めて、社長は考えたのです。
「このままでは、会社が潰れてしまう」と。

よく似た事例は他にもあるものです。
拙著「自律型組織をつくる6つのポイント」の第1章に登場する建設会社と同じような事態が起きました。

建設会社とH社の違いは2点あります。

1つは、建設会社の社長は初代、H社の社長は三代目です。
3代目社長だから、「会社を潰してはいけない、大きくしなければならない」
そんなプレッシャーは初代よりも大きかったのだと思います。

もう1つは、建設会社の社長は経営理念を作り直しました。
H社の社長は、初代から引き継がれてきた経営理念に忠実になることにしたのです。

経営理念を見直す

H社の社長は、経営理念を見直し、一時的に売上が下がってもいい「基本に戻ろう」と考えを改めました。

詳細は守秘義務があるため申し上げられませんが、「こだわりの商品づくり」「人づくり」を2本柱とし経営を見直しました。

以前は、効率を上げるために商品づくりを機械化していました。
しかし、こだわりの商品をつくるためには手作りの部分もありますから、量産することは簡単ではありません。

それでも、顧客からの評判は以前よりもよくなり、売上数量はやや減少したものの、単価がアップしたことで売上は伸びていきました。

いままではトップダウンで社長の指示命令通りにしか仕事ができていませんでした。

経営理念に忠実になると同時に、自分ひとりの限界を感じ、社員の力を活用することにしました。

工場のラインも増やし、社員数を増やし、勤務時間も見直し、残業時間も減らしました。

社員の力を高めるために、教育研修にもメスをいれたのです。
講義形式は最小限にして、社員が考える「教えない研修」に改めて、自主性を発揮できるようにしています。

その後の新商品開発では、社員有志を募集し、経営理念に沿った開発を行った結果、会社を代表するヒット商品も生まれました。

経営理念に則った経営

過去の経営では、売上・利益に対するプレッシャーから、H社の3代目社長には余裕がなくなっていました。

社長の売上・利益に対するプレッシャーは、幹部社員、一般社員にも襲いかかっており、社員にも余裕がなくなっていたのです。

「あのときは売上・利益だけに目が向いていて、いつもイライラしていたように思います。
多分そのときに胃潰瘍になったんだと思います。キリキリと胃が痛む感覚もありましたから。

不思議なことに、経営理念に忠実になろうと考えたときに、開き直れたというか、スッキリした感覚がありました。
それからは、社員の表情も明るくなっていき、そのときに胃潰瘍は自然に治ったんだと思います。
経営の目的さえはっきりしておけば、道は開けるんですね

経営理念に忠実な経営をはじめた数年後に、H社の社長はこのようにおっしゃっていました。