もう数十年前のことです。
私が経営企画室にいた頃、とある経営セミナーでこんな言葉を聞きました。
「粗利益の5%は教育費に回せ」
当時はまだ「人本経営」という言葉も一般的ではありませんでしたが、人材育成の重要性を説く言葉として、強く印象に残りました。
もちろん、業種や企業規模によって事情は違います。必ず5%でなければならない、というわけではありません。
大切なのは、社員の能力向上にどれだけ意識的に投資しているかということです。
ところが、経営相談では、こんな声をよく聞きます。
「研修はおこなっています」
「セミナーにも参加させています」
しかし、そのあとにこう続くことが少なくありません。
「正直、どれくらい効果があるのかは分からないんです」
このように、多くの会社が、教育費を使ってはいるのですが、その効果をあまり検証していないのです。
もう一つ気になるのは、教育費の使い方です。
多くの会社では、教育機会を「平等」に与えようとします。
いつも全員同じ研修。
外部セミナーにも参加。
誰かだけが特別な教育を受けると不公平ではないか。
そう考える気持ちは理解できます。
しかし、実際のところ、人の成長は平等ではありません。
同じ研修を受けても、吸収する人とそうでない人がいます。
同じ本を読んでも、すぐ行動に移す人と、何も変わらない人がいます。
これは能力の差というより、意欲の差です。
新しいことを学ぼうとする人。
自分の仕事をもっと良くしようと考える人。
会社の未来に関心を持っている人。
こうした人材は、研修の一つでも確実に吸収し、自分の仕事に生かしていきます。
そして、その行動が周囲にも影響を与え始めます。
つまり、会社を変えていく人材は、いつも組織の中の一部なのです。
だからこそ、教育費の使い方はとても重要です。
教育費をただ平等にするだけでは、組織全体が大きく変わることはあまりありません。
むしろ、やる気と能力のある人材に、集中的に学ぶ機会を与えることの方が大きな効果を生みます。
視野を広げる機会を与える。
新しい経験をさせる。
責任のある仕事を任せる。
すると、その人材が成長し、周囲に影響を与え始めます。

組織は、そうした人材の成長をきっかけに変わっていくことが多いのです。
反対に、教育投資が曖昧な会社では、意欲のある社員ほどこう感じ始めます。
「この会社では、成長する機会があまりないのではないか」
すると、成長したい人ほど外にチャンスを求めるようになります。
結果として会社に残るのは、言われたことだけをやる人材になってしまうこともあります。
中小企業の場合、数人の人材の成長が会社に与える影響はとても大きいものです。
新しい仕事を生み出すのも、
組織を引っ張るのも、
次の世代を育てるのも、
結局は、人です。
教育費は単なるコストではありません。
会社の未来をつくるための投資です。
そして、その投資は「いくら使うか」だけではなく、どう使うかが問われます。
もし今、教育費を全社員に満遍なく使っていると感じるなら、一度立ち止まって考えてみてはいかがでしょうか。
その教育費は、会社の未来につながっていますか。


