会社にはいろんな価値観をもった社員がいます。
価値観の異なった多くの人のベクトルを合わせて、同じ方向へと導くためには経営理念は絶対に必要なのです。

経営理念は、会社の活動の方向性を決めるものであり、社長や社員が仕事をする中での意思決定や行動をするときの判断基準となるものです。

今回は自律型組織にするための経営理念の作り方を考えます。

1.経営理念を作成する6つのメリット

経営理念とは、会社を経営する目的を明確にするものです。
共通の目的があるからこそ、多少の障害があっても努力でき、成果があがります。

また、経営理念をもとに社員一人ひとりが会社に誇りを感じられ、やりがいを持って働ける会社にするためのものです。

経営理念のメリットをまとめると次の6つがあります。

  • 社長、社員が意思決定をする上での判断の指針となる
  • 社員が会社の価値観を共有し、会社としての一体感が生まれる
  • 会社の進むべき方向が明確になるため業績がアップしやすくなる
  • ブランドイメージの向上につながる
  • 自社の価値観にあった人材を採用できる
  • 「自律型組織」作りの前提となる

2.経営理念に盛り込みたい3つの要素

経営理念に盛り込みたい内容は

1.会社が(顧客に)提供する価値や強み、独自性

2.お客様・社員・社会に対してどのように貢献(幸福)にするのか

3.会社や店舗の普遍的な存在価値

の3つです。
また、この3つは、自社探求と社会探求をしてパーパスを明確にするときに考えるべきことと同じです。

パーパス

1.会社が(顧客に)提供する価値や強み、独自性

会社の事業領域を表し、自社の提供価値や独自性を盛り込みます。

株式会社タニタでは「はかるを通して・・・」と表現しています。

キリン株式会社は、「『食と健康』の新たなよろこび・・・」であり、それぞれ「はかる」「食と健康」を事業領域にしています。 このように自分たちがやるべきこと、自分たちだからできること、を経営理念で表現しています。

2.お客様・社員・社会に対してどのように貢献(幸福)にするのか

お客様や社員、取引先、社会にどのように貢献をしていくかを表します。

京セラ株式会社では「全従業員の物心両面の幸福を追求する」と高らかに宣言をしています。 ライオン株式会社は「企業を支えるすべての人々に深く感謝し、誠意と相互の信頼をもって共栄をはかる」としています。

3.会社の普遍的な存在価値

会社のあり方や存在価値を表します。

株式会社三井住友銀行では「社会課題の解決を通じ、持続可能な社会の実現に貢献する」としており、元気寿司株式会社では「回転寿司を通して社会に貢献し、日本全国から世界へと寿司文化の普及拡大をめざします」としています。

回転寿司を通しては、事業領域に当たります。日本全国から世界へと寿司文化の普及拡大が存在価値になっています。

まずは、3つの個別に考えなくても構いません。自由な発想で考えてみることです。

3.経営理念を作る7つのステップ

実際に経営理念を作るために、7つのステップで考えていきます。

1.社長の人生理念をベースにする

2.他社の経営理念を分析する

3.自社の独自性を織り込む

4.お客様・社員を幸福にするために何をするかを考える

5.社会への貢献方法を考える

6.草案を考える

7.冷却期間をおく

それぞれのステップについて考えていきます。

1.社長の人生理念をベースにする

社長の人生理念をベースに経営理念を考えるのが、自律型組織をつくる前提であり、特徴です。

社長が手に入れたい未来や、会社でこんなことが出来たらいいな、幸せとは何かを考えた際に気になったキーワードが経営理念を考える際にも非常に参考になります。

人生理念を作っていただくと、多くの社長のキーワードには「感謝」「信頼関係」「貢献」「挑戦」「熱意」「誠実」「幸福」「志」「生きがい」「個性」などが出てきます。 

これらのキーワードが出てきた背景には、いままでの社長の人生で一生懸命取り組んだことや充実していたこと、取り組んで来た理由やそのときの心情が大きく影響をしています。

そのため、社長の経験が経営理念のベースに流れることになるため、社長の想いが社員の心に響き、共感しやすくなります。

ある医療機器メーカーの経営理念は「挑戦し続けることで、持続可能な環境を作り出し、人々の健康に貢献する」です。

社長がこれまでの人生で最も大切にしたいキーワードであった「挑戦」をそのまま経営理念にしました。

人生を振り返ると、学生時代から挑戦しては失敗し、失敗があったからこそ成功できた経験が今の自分を作っています。挑戦することで社員の能力を伸ばし、会社の経営を通じて、環境に優しい、人々の健康な生活に貢献することを経営理念にしました。

2.他社の経営理念を分析する

最初から他社の経営理念を参考にしてしまうと、それに引っ張られてしまって、自社らしさが消えてしまうことがあるため、以前はおすすめをしていませんでした。

しかし、参考にできる経営理念があった方が考えやすい場合は、なるべく多くの経営理念を見てみましょう。

インターネットで他社の経営理念は調べられます。ホームページに経営理念の由来が書いてある会社もありますから、業務内容を知っている会社であれば経営理念を見るだけではなく、どうしてこの理念になったのかを分析します。
分析をすることによって、経営理念への理解がより深まります。

参考にするのは同業者ではなく、異業種の経営理念を参考にすることをおすすめしています。なぜなら、同業種の経営理念は似ていることが多いからです。

3.自社の独自性を織り込む

会社が続けてこられたのは、会社に強みや価値、独自性があったからです。
自社の強みやお客様に提供する価値、独自性を書き出してみると経営理念を作る際に役立ちます。

社長が考える強みは何でしょうか?
商品やサービス、開発力、技術、人材育成など様々な面から思いつくままに書き出してみましょう。

社長が考えるほかにも、社員やパート・アルバイトが考えているお客様への提供価値や独自性もあるはずです。

そして、顧客にインタビューをすれば、自社の魅力や独自性を探り出す大きなヒントを与えてくれます

顧客へのインタビュー

4.顧客・社員を幸福にするためには何をするかを考える

現パナソニック(松下電器)創業者である松下幸之助翁は、「松下電器は何をつくるところかと尋ねられたら、松下電器は人をつくるところです。併せて電気器具もつくっております。こうお答えしなさい」と社員に話していたそうです。

会社が成長するには、社員が成長をしなければなりません。

社員にイキイキと仕事してもらうにはどうすればいいのか、社員を人として成長させるには何をすべきか、社員が幸せになるためには何が必要なのか、など会社を支えてくれる社員が共感できるような視点で考えます。

顧客については3.と重複する部分もありますが、どのように顧客に幸せになっていただくかを考えます。

これも思いつくまま書き出します。社員と一緒に考えても、社内で共通の認識が出来るようになります。

5.社会への貢献方法を考える

社長が創業者として興した会社であっても、社員を使って、顧客のために商売をしていれば社会の公器です。
3.では顧客と社員について考えてきましたが、会社には他にも取引先、株主、地域社会、環境(SGDs)などの利害関係者がいます。

昨今ではプラゴミが海洋汚染の原因の一つとして取り上げられています。プラゴミを減らすために、大手外食企業ではプラスチック容器を紙製や植物性由来の容器に切り替えるようにして環境に配慮しています。

ある飲食店でも、プラ容器を止め、紙容器に変更し、コストの増加分を価格に転嫁しました。このことをニュースレターで伝えると、値上げをしたのにもかかわらず、お客様は納得してくださり、販売数は減少しなかったのです。

環境や利害関係者を含めて、自社がどのように貢献をしていくのか、どのように会社を存続させていくのかを考える必要があります。

いいかえれば、自社の存在意義を経営理念の中で明確にしていきます。

6. 草案を考える

1~5までのステップごとに、文章やキーワードを思いのままに書き出していきます。その中から社長が会社経営において大切だと思う言葉をピックアップします。

その言葉をつかって経営理念の草案をいくつか書き上げます。最初は長い文章になってもかまいません。文章として未完成でも問題ありません。

7.冷却期間をおく

売れる仕組み作りコンサルティングの一環として、他社との識別をしてお客様の記憶に残し、販売促進の効果を上げるためにロゴ制作のお手伝いをしたことがあります。
その経験からすると、経営理念を作る過程とロゴを作る過程はよく似ています。

ロゴは様々な要素を考えながら、想像力を駆使して制作をしていきます。シンプルで、瞬間に理解でき、経営者の想いや会社の価値が反映されるように何案も何案も考えていきます。

数案ロゴができたら、しばらく放置します。ロゴが完成した瞬間は「これは素晴らしい」と思うことが殆どです。

しかし、1週間、1ヶ月後に時間を空けて見直してみると、「ここを修正したら、もっとよくなるな」と気付くことがあります。

完成時には主観的に見ていたのが、時間をおき冷却期間をおくことで客観的に見られるようになるからです。

経営理念も同じことが言えます。数案経営理念を選んだら、しばらく経営理念のことは忘れて下さい。

2~4週間ほど立ってから、経営理念を見返してみると「ここを変えればもっと良くなるな」「言葉の前後を入れ替えてみよう」など気付く点が見えてきます。

4.経営理念は誰が作る

経営理念の多くは、社長が考えています。
社員と経営幹部が一緒に、作り上げることもあります。
社員が少なければ、社長と全社員が一緒につくることも可能です。
私どものような外部の人間にサポートを受けながら、策定していくこともあります。

社長と経営幹部が合宿をして経営理念を考えた会社もあります。

経営理念の作り方|自律型組織式

ある2代目社長は、会社を支えてくれるのは社員だと言うことを強く感じていたため、幹部社員と一緒に経営理念を作りたかったのです。

合宿が始まってしばらくは通り一遍の議論に終始しました。しかし、時間が経つにつれ本音がぶつかり合うようになっていきます。

社長をはじめ幹部社員は、それぞれ自分の価値観があります。会社の方向性や運営などについても理想があります。その上で経営理念について話し合いをするため、激しい議論になりました。

でもそれが、お互いを深く知るキッカケになり、経営理念が少しずつ形になっていきます。そして、全員が納得できる経営理念ができあがったのです。

また、経営幹部と経営理念を作成すると幹部の意見も取り入れられたことになります。自分の意見が取り入れられていれば、社長に代わって経営理念を部下に理解・浸透させることもでき、経営理念を体現して社員の見本となることもできます。

まとめ

産能大学経営学部の宮田矢八郎教授によれば優良企業の7割は「経営理念」があると著書の中で述べています。(宮田矢八郎著『理念が独自性を生む』ダイヤモンド社刊より)

経営理念が漠然としていれば、しっかりと明文化することをおすすめします。

経営理念がある会社は多いと思います。
社長自身の人生理念を見つめた上で、今一度、自社の経営理念を見直してみてはいかがでしょうか。

そして、経営理念を社員が理解・共有・共鳴することで、会社の進むべき方向が明確になってベクトルを合わせることができます。

経営理念づくり詳しくは、こちらから

経営理念を社員が共感・共鳴するためには

存在意義・パーパスは、こちらから