慶応高校の107年ぶりの甲子園優勝の戦い振り、監督・選手のインタビュー、報道を見聞きしていると企業経営との共通点が見つかります。 ここでは、慶応高校の優勝の原動力と企業経営に活かす方法について書いていきます。
エンジョイ・ベースボールと経営理念
エンジョイ・ベースボール
初めて「エンジョイ・ベースボール」という言葉を聞いたときには、「何を言っているんだ?!」と思ったものです。
そんなふうに思ったのは、何も考えずに「高校野球はこうあるべきものだ」との固定観念があって、選手は坊主が当たり前、勝っても、負けても涙無しには語れない青春スポ根物語だと思い込んでいたからです。
考えてみれば「エンジョイ・ベースボール」の字面ではなく、根底に流れる意味を考えないと、正しくは理解できないことに、この仕事をするようになって気付きました。
慶応高校野球部の森林監督はエンジョイ・ベースボールの本質は、「野球を楽しもう」と言っています。
続けて「何が楽しいかというと、当然スポーツなので勝つこと。そのために自分の技量を上げて、チームも強くなり、その結果、勝利という果実が得られる。結局みんながやっていることです。
付け加えるとしたら、『より高いレベルの野球を楽しもう』という意識です。
より高いステージで野球をして、そこで見える景色を楽しむのが、ぜいたくな野球の楽しみ方じゃないでしょうか。 高校野球ではやはり甲子園でしょう。負けてもいいだなんて全くなくて、勝利は貪欲に追求します」
経営理念
ある顧問先の会社の売上が小さかったときのことです。
当時の経営理念は「儲けよう!」でした。
「え!これが経営理念?」と違和感をもたれる方もいるでしょう。
しかし、「エンジョイ・ベースボール」と同じで字面だけをみると「とんでもない会社だ」「金の亡者」と言われかねません。
しかし、この経営理念の本当の意味は、金儲け主義ではありません。
商売ですから、儲けることが企業を大きく成長させる源になります。
そのためには、多くの顧客に買ってもらう必要があります。
さらに、品質がよく、リーズナブルな商品を提供する必要があり、他社にはない利便性がなくてはなりません。
そして、顧客に長くお付き合いしてもらうことです。
この経営理念を社長はじめ社員も全員が理解しており、朝礼毎に経営理念の意味も含めて唱和をしていました。
売上・利益が伸び、企業規模が大きくなって世間に経営理念を公表するとなるとさすがに、「儲けましょう」ははばかられるようになり、経営理念を変更しています。
チームや会社にはいろいろな価値観をもった人がいます。それをまとめていくためには、経営理念が必要です。
その経営理念は、抽象的な表現が多くなりますから、経営理念に込められた本当の意味を社員が理解し、共感することが、チームや会社を動かす力になります。
考える野球と考えて行動する社員
考える野球
「エンジョイ・ベースボール」を掲げる慶應高校の森林監督は、選手の自主性を重視し、選手自身が考える野球を目指して指導してきています。
森林監督はインタビューの中で、「野球を楽しむためには、ああしろ、こうしろと言われて従うだけになったら、やらされる野球になってしまい、何もおもしろくない。
指導者側がよかれと思っても、“教えるリスク”をもう少し考えないと、教えることイコール選手がうまくなる、チームが強くなるというのは幻想に過ぎません」と答えています。
多少時間が掛かっても、選手が自分で考えるからこそ、実行力が高まり、上手くいかなくても再度考えて上手くいくように努力をして、習得していくから本当の実力がついていきます。
「エンジョイ・ベースボール」という理念があり、甲子園優勝という目標に向かっているからこそ、自分たちは楽しく野球をしたい、そのために上手くなりたいと選手自身が思っています。
何のためにどうやって練習をするのかを、常に考えることも必要です。
だから、短い時間に集中して行う練習一つとっても、選手たちが考えています。
ただ、監督としては勝つために、誰がチームの勝利に貢献するのか、誰を試合に出すかは、公平に見て、客観的に判断します。
選手が自分自身で気付かないこともあるので、試合に出るためにはこういう点を伸ばしたり、こういう弱点は修正したりした方がいいんじゃないかとかいう提案はしているそうです。
考えて行動する社員
社長が抱える不満の一つに「指示待ち社員が多い」があります。
そうなってしまうのは、いろんな原因が考えられます。
その一つには、経営者側の原因もあります。
指示通りに動かないと、注意される。
部下が一生懸命に考えて行ったことが上手くいかないと「指示通りに動かないから失敗するんだ」などと言われれば、やる気はそがれます。
言葉はきつくなくても、表情が険しければ、部下は上が良く思っていないと感じるはずです。
一生懸命に考えて行ったことを否定されては、たまったものではありません。
こんなことを繰り返していると、「自分で考えても否定されるだけなら、言われた通りにやっておけばいいや」と指示待ち社員になってしまうのは当たり前です。
高校野球では「俺の言うとおりにやっていれば良い」と監督の指示に従わせるようなチームもありました。そんなチームは1球ごとにベンチを見ています。これでは、選手が自分で考えることをしなくなります。
考えて行動する社員を増やすためには、会社の目的を社員が理解していることです。
また、自分のやりたいことや能力を伸ばせる会社であることも非常に重要になってきます。
社員の能力を実務だけでなく、本当にやりたいことを本人に気付かせる研修も有効です。
その上で、指示を出して社員を動かすのではなく、社員に権限を与えて仕事を任すことで、社員の能力を伸ばしていきます。
経営理念ビジョンに共感し、仕事をすることが自分のためにもなることがわかっていれば、社員自身が、何をすべきか、どのようにすべきかを考えて行動できるようになります。
チームワークと心理的安全性
チームワーク
慶応高校では、「KEIO日本一」の合言葉がチームで共鳴していました。
目的に向かって、チームが一丸となっているときには、チームワークは良くなります。
メンバー全員が、やるべき事を理解し、行動し、チーム内で助けあっているから強いのです。
そしてもうひとつ、監督と選手の距離感が近いことです。
監督の指示は絶対で、監督に意見を言うことなどもってのほか、選手が直立不動で監督の話を聞くなんてことはありません。
距離感が近いから、監督と選手のコミュニケーションが取りやすく、選手が身体の状況を率直に伝えられます。
本当の意味でのコミュニケーションが取れていなければ、「次の回も行けるか?」と監督に聞かれれば、ピッチャーは「大丈夫」としか答えられません。
でも、それをしてしまうと身体を壊してしまう可能性もあるのです。
監督が絶対的な存在であって、相互のコミュニケーションが取れていなければ、もしミスをすれば、叱られるんじゃないかと恐怖を感じます。
すると身体は緊張して硬くなり、かえってミスを起こしやすくなってしまいます。
慶応高校は、ミスをしても選手に悲壮感が漂うことなく試合を楽しんでいるように感じました。
そして合い言葉は「ありがとう」です。
チェンジになってベンチに戻ると互いに笑顔で「ありがとう!」といいます。
「ありがとう」は、ポジティブになれるし、やってやろうと前向きな気持ちになります。 チームが前向きになれば、チーム力はいつも以上のパフォーマンスがでます。
心理的安全性
会社もスポーツチームと同様、社長と一般社員の距離感が近く、風通しが良ければ業績が良くなります。
というと「なあなあ」の組織になるのではないかと心配される方もいらっしゃいますが、決してそんなことはありません。
その証拠に、民事再生の企業を1年で黒字化した社長の行ったのは、社員全員に声を掛けたことです。
その上で一人ひとりの社員のいいところを見つけて「いいね」「どうしたらよくなると思う?」と話しかけたことで、社長にも意見が言えるようになり、暗かった会社の雰囲気が明るくなりました。
「恐れのない組織」の著者エミリー・C・エドモンドソンのよると心理的安全性の定義は「対人関係の不安を最小限に抑え、チームや組織のパフォーマンスを最大にできる組織」だと書かれています。
私が考える心理的安全性とは、「職場の人は信頼できる仲間であり、社員一人ひとりが会社に貢献しており自己有用感の持てる組織」です。
心理的安全性の高い組織にするには、社員相互間でお互いの人間性、優れている点を認め合い、会社が自分の意見を否定せずに受け入れてくれることがベースになります。
これだけで、社内のコミュニケーションは爆発的に良くなります。
パワハラ、モラハラは確実に減っていきます。
さらに、前向きなチャレンジングな失敗は高く評価をすることです。
そうすれば、前回の失敗を教訓にして、新たなチャレンジをするようになります。
成功をするためには、前向きな失敗を受け入れられる組織風土が欠かせません。
当たり前の事ですが、心理的安全性の高い組織では、あいさつやアイコンタクトをして話すことが出来ています。
さらに、仕事に対しての行動については会社内地位の上下に拘わらず「ありがとう」といっています。
例えば、エレベータでドアの「開」ボタンを押しいたときに「すいません」と言われるのと「ありがとうございます」と言われるのは、どちらが気持ちがよくなりますか? それだけ「ありがとう」は、人を快にする魔法の言葉なのです
まとめ
夏の全国高校野球大会で優勝したチームがやって来たことは、理にかなっていると思います。
そして、慶応高校が行ってきたことは企業経営でも十分に参考になります。
まずは、チームや会社の理念を明確にし、それをメンバーが絶対達成するぞと思えるものであること。
つぎに、目的を達成するためには、自分たちが何をどのようにすれば良いかを考えて実行すること。
そして、目標に向かって仲間を信じて、チーム一丸となって向かって行くこと。 これらのことは、まさしく自律型組織と考え方が同じです。
自律型組織を構築するためには、
- 社長・社員が共感できる経営理念を作る
- 経営理念からビジョン・経営戦略を策定する
- 社員の仕事観を高め、経営理念と融合する
- 心理的安全性の高い組織文化を創る
- 経営戦略を実行するための仕組みを作る
- 人材が育つ社内環境を整備する
業績と人材を伸ばすためには、自律型組織づくりが最適な方法です。
参考文献:HUFFPOST日本語版 2019年03月23日
参考文献:HUFFPOST日本語版 2019年03月23日
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