典型的なダメなマネジャー

あるマネジャーは、かつてコミュニケーションが全然取れなかったんです。
彼は、部下に指示を出す際に、あれやって、これやってと伝えるのがうまくできていませんでした。。

それにも関わらず、部下がその通りに動かないと、「なんでそんなことやってんの」と怒ってしまって、上手に叱れなかったんです。
チームとしてはうまく機能せず、職場はどんどんぎくしゃくしたものになっていきました。

こんな状態ですから、自分一人で必死に収益をあげようとあがけばあがくほど、チームとの距離は広がり、チームの士気と売上は下がっていきます。

部下は動いてくれないので、マネジャーである自分には、仕事が山積み。結局は自分自身にまでストレスがたまり、精神的にも疲れがたまってゆく状況で、典型的な「ダメなマネジャー」になっていたのです。

コミュニケーション研修で変わるマネジャー

ある日のこと、彼を見かねた社長の命令で、ある研修に参加しました。これまでも会社の研修はありましたが、法律や数字の話が中心で、コミュニケーションに関することはほとんどありません。

ところが、この研修では、様々なコミュニケーションを体験することができました。中でも彼が感銘を受けたのが、参加者同士が認め合い、温かい雰囲気の中で学び合うことができ、心地よい雰囲気が広がっていたことでした。

この体験で彼は、自分が本当に望む環境の職場とは、こんな雰囲気のチームだったと思ったのです。

そして、彼は部下の意見を聞けるようになりたい、そして部下の良いところに目を向けて、認めてあげれば、やる気を出して自分で生き生きと動いてくれるのでは、と考えたのでした。

問題社員

このことを実践したのは、どこの会社にもいるような少し問題のある部下、「牧さん」としましょう、に目を向けました。

この牧さんは、入社4年目の中堅社員でしたが、半年間で7回もお客様が来店しても、挨拶をせず、接客をしたくないので作業をしているふりをして無視しているんです。
小売りやサービス業などの接客業としては、致命的なクレームでした。

それでも、しっかり接客できるようになって欲しいと思って
「牧さん、なんで接客しないの、またクレームもらったよね。わかってる」
何度同じこと言っても改善しないので「なんで、できないの!」と、怒ってばかりいました。

牧さんの先輩社員も彼には困っていて、パワハラまがいの厳しい口調で怒っていましたが、彼は全然変わらないどころか、「いや、私そんなこと言ってません」「私は悪くないんです」と自己弁護をしており、挙げ句の果てには「誰々さんが悪いんです」と他人のせいにしたり、言い訳ばかりで、全く直改善の余地はありませんでした。

新しいリーダーシップ

そこでマネジャーは、研修で学んだ良いところを見て、それを相手に伝える「OKメッセージ」を実践することにしました。

これまで牧さんといえば、チームの誰もがクレームが思い浮かぶ問題のある社員でした。
それでも、牧さんの良い部分に目を向けてみようと考えたのです。すると牧さんは事務作業が得意で、かつ正確に期日までに確実に仕事をこなしていることがわかってきました。

マネジャーは牧さんに「事務作業を任せると助かるんだ。これからもよろしく頼むよ」とOKメッセージを伝えました

すると、数ヶ月後、牧さんは以前と比べて笑顔が見えるようになり、接客をする際にも以前のようなお客様を無視するようなこともなく、クレームが激減していたのです。

マネジャーはその変化に驚きました。牧さんは、OKメッセージにより、自分はこのチームに必要とされていると感じ、少しずつ前向きになっていきました。

マネジャーは、何か問題があるたびに牧さんを怒り、追い詰めるような対応をしていました。

クレームが多い、問題が多い社員は、どうしてもマイナスしかみえないことが多いのです。
そのため、いいところがあっても隠れてしまい、最悪のケースは「ダメ社員」のレッテルを貼ってしまうことです。

一旦レッテルを貼ってしまうと、悪いところしか見なくなります。

ところが、このマネジャーは、研修で学んだこともあって、牧さんのいいところを見る努力をしました。

その結果、牧さんはOKメッセージをくれたマネジャーに対して、自分のことをわかってくれると自信を持ち、自然と行動がよい方向へと変わっていました。

1つのことに自信を持つようになると、他のことに対しても好影響をあたえます。

社員の成長が会社の成長

この経験から、マネジャーは他のメンバーに対してもOKメッセージを使うようになりました。

もちろん、OKメッセージだけで、全てが解決したわけではありません。しかし、これでチームの雰囲気は格段に良くなりました。

会社にとって、数字や結果は必要です。
しかし、それは社員の持っている力を十分発揮できてこそなのです。
人の成長こそが、結果的に会社の業績向上につながります。

この実話は、リーダーシップに関して「相手の良いところを認めること」の重要性を教えてくれます。中小企業の経営者やマネジャーにとって、部下との良好な関係を築くのは、業績に直結する重要な要素です。

社員が、自信を持って業務に取り組むことで、会社全体の生産性が向上し、結果的には経営の安定に繋がっていきます。