5月27日の自律型組織構築セミナーでは、初めてのことが起こりました。
いつもは、中小企業の社長や経営層の方が参加されます。
ところが、この日は上場企業の元社長で、現在は顧問をされている方が参加されました。
参加の目的は、「顧問として客観的な立場で会社のことを考えたい」とのことでした。
セミナーでは、経営理念の重要性を事例を使って話をしています。
そして、その成功の陰には「経営理念が、社長自身の人生理念や価値観が反映されたものであったからです」と話しました。
経営の中心には、社長の考え方や信念が存在する必要があり、それが理念の形を取ることで組織全体の軸になる、という趣旨でした。 すると、参加していた上場企業の元社長が、このことに強く同意されました。
上場企業の元社長が示した共感
社長在任中には経営理念については、「顧客第一」「品質の追求」「社会的信頼の確立」といった一般的な言葉が並んでいたそうです。
しかし、「セミナーで話を聴いて振り返ってみると、立派な経営理念やミッションは額に飾られ、唱和するだけになっていたように思います。社員がどれだけ本気で共有していたのかが疑問です」と感慨深げにおっしゃっていました。
経営理念は“会社の軸”である
中小企業の経営において、「経営理念」は単なる標語であってはいけません。
それは会社の方向性を示す指針であり、組織全体に浸透すべき価値観でもあります。
中小企業においては、社長個人の信念や人生観と切り離された理念は、社員や顧客にとって響きにくくなります。
表面的な理念は覚えられても、行動の指針にはなりません。
逆に、社長の体験や思いから生まれた理念は、一貫性を持ち、組織の意思決定にブレがなくなります。
判断や行動の基準となる
経営判断において迷ったときも、経営理念が明確であれば判断基準になります。
数字や合理性だけでは判断しきれない局面でも、経営理念に立ち返ることで一貫性のある意思決定が可能になります。
さらに、理念が明確に語られている会社では、マネジメント層の判断も安定し、社員間のコミュニケーションもスムーズになります。
「うちの会社はこういう考え方で動いている」という共通認識が、組織のブレを防ぎます。
経営理念が社長の人生理念に基づいていると、実務的なメリットもあります。
たとえば、採用の際に価値観のすり合わせがしやすくなり、ミスマッチが減ります。理念に共感して入社した社員は定着率も高いのです。
社員に対しても、経営者が理念を自分の言葉で語ることで、納得感や共感が生まれやすくなります。
社員に伝わる経営理念
理念が社長の内面から出た言葉である場合、社員はその背後にあるストーリーを感じ取ることができます。
どんな思いで起業したのか、なぜこの事業を続けているのか、何にこだわっているのか。
そうした背景が伝わることで、理念は“掲げるもの”から“支えるもの”へと変わっていきます。
理念は「今の自分」の整理でもある
経営理念は、過去を美化するためのものでも、将来を約束するためのスローガンでもありません。
むしろ、経営者自身のこれまでの生き方、失敗や成功、苦悩や喜び、そういった蓄積が自然とにじみ出るものこそ、本物の理念といえるでしょう。
そのために、社長自身がご自身の人生理念を見つめていただく必要があります。
理念を再確認することの意味
上場企業を率いた経験を持つ経営者が「理念を再確認することの意味」をあらためて感じたという事実は、多くの中小企業経営者にとっても示唆に富むものです。
企業の規模や歴史にかかわらず、今あらためて
「自分は何のために経営しているのか」
「何を大切にしているのか」と自問し、
それを言葉にすることが、これからの経営の安定と成長の出発点になるはずです。