強みとは?

「焼き鳥は、焼く人によって美味しさが違うんだよね。そんな話をお客様からよく聞くし、実際に食べてみると味の違いがわかるんだよね」と焼き鳥チェーンを経営している社長がおっしゃっていました。

同じ素材でも焼き方が違えば、味が違うのは職人さんの技によるところが大きいのでしょう。

どうして美味しく焼けるのか職人さんに聞いたところ、「今までやってきたことだから説明しろと言われても、わからない」これが答えでした。

焼く技術は、店の強みであることは確かです。しかし、この強みを言語化しておかなければ、職人さんが辞めたとたんに味は変わってしまいます。そして、売上も下がる可能性があります。

同じようなことを、ある地方の商工会の経営相談員の方から先日伺いました。
経営相談員の方が地元企業の「ものつくり補助金」申請の支援をしたときのことです。

この企業は、黒字が続いている機械加工の企業で高い技術を持っています。
ところが、この高い技術は社長しか知らなかったのです。

社長も、この仕事を長いことやっていれば当たり前だと思っており、自社の強みだとは考えていませんでした。

さらに、社長の年齢は70歳を超えており、後継者に技術をひきつがなければ会社の存亡にも関わってきます。

会社の強み(知的資産)を堀り出す

会社には必ず強みがあります。強みがあったからこそ、経営が出来てきたわけです。

しかし、上の例でみてきたように、強みがあるのに強みの理由がわからない、強みがあるのに強みだと思っていないケースが非常に多いのです。

そのため「御社の強みはなんですか?」と聞いても、ほとんど答えは出てきません。

まずは、経営者や経営幹部の方々に、経済産業省が推奨している知的資産経営の「価値創造ストーリーシート」を利用します。

知的資産とは?

強みを活かす知的資産経営術

「知的資産」とは、バランスシートに記載されている以外の無形の資産であり、人材、技術、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。

知的資産(自社の強みや目に見えない資産)を、会社の内と外から見直すことで、今後の事業展開とそのための戦略が策定できるようになります。

強みを書き出す

価値創造ストーリーシートを使って、4つの項目で強みを書き出します。

人的資産: 経営者・従業員が磨いてきた技・知見・技能などであり、従業員が退職すると企業が失う資産。具体的には、社長のリーダーシップ、経験、ノウハウ、製造技術、企画力など。

構造資産: 会社が蓄積してきた様々な価値であり、従業員が退職しても企業に残る資産。具体的には、経営理念、製造プロセス、ブランド、各種システム・仕組みなど。

関係資産: 対外的な関係から築かれた様々な価値であり、連携することで大きな価値を生むもの。顧客、取引先との関係性、販路、地域とのネットワーク、所属団体など。

その他の資産: 人的資産、構造資産、関係資産に含まれない価値。具体的には、外部表彰、認証、特許権、著作権、SGDs認定など。

これらを書いていただいたあと、私どもの方で、それぞれに質問をして深掘りをします。

インタビューで深掘り

先ほどの機械加工会社では、社長が持っている人的資産である技術に対して製品の精度が高い理由、それが可能になる理由を具体的になるまでインタビューをして、強みを詳らかにしていきます。

焼き鳥チェーンのケースでは、職人さんが持っている人的資産である料理技術を明らかにするために頭にカメラを付けて、火力や焼き鳥を返すときなどのタイミングで質問をして、強みの理由をビジュアル化と言語化を行いました。

強み(知的資産)を経営戦略に

強みが明らかになったら、弱みも明確にします。強みと弱みを元にクロスSWOT分析などを行い、競争上の優位性や独自性を見つけることができ、経営戦略の策定が可能となります。

経営戦略には、強みを活かした新たな製品やサービスの開発、プロセスの最適化、顧客体験の向上など、高い付加価値を顧客に提供できる領域を見出し、競争力を向上させることが可能になります。

中小企業は大企業に比べて、経営資源が限られています。経営資源が限られているからこそ、経営戦略では、強みに資源を集中する必要があるのです。

また、経営戦略や経営計画の達成度を測るためには、重要目標達成指標であるKGI(Key Goal Indicators)と重要業績評価指標であるKPI(Key Performance Indicators)の設定は、欠かせません。

企業の戦略的目標を具体的な指標として設定し、それを達成するためのKPIをモニタリングすることで、企業の健全性や成果を把握できます。

これにより、戦略の進捗状況をリアルタイムで把握し、必要に応じて調整を行うことが可能です。

事業価値を高める経営レポートの活用

強みを活かす知的資産経営術

事業価値を高める経営レポートは、企業内の強みを見える化していくときに使うシートです。

企業が持つ、知識や情報、技術や業務の流れなどを可視化し、内部環境、外部環境、現在と未来の価値シートをA3用紙1枚にまとめたものです。

経営レポートを見れば、どのような過程でビジョンや今後の取組ができたのかなど、企業の全体像が把握できます。そして、どこまで実行できているのか進捗状況のチェックにも使用できます。

強み(知的資産)を活かした経営を実践した成果

事業承継

中小企業経営において事業承継は、企業の持続性と成長の鍵となります。

隠れた強みを含めて企業の強みである中核的知見や技術、ノウハウを言語化、文書化することで、次世代に継承できるようになります。

後継者や従業員がスムーズに引き継ぎを行うことができ、企業の価値を守りながら、後継者の持っている関係資産などを加えれば、企業をさらに発展させることが可能です。

M&A

後継者への事業承継だけでなく、M&Aを行う場合も、企業の価値が明確になるため、買収される企業の価値も高くなり、買収する側も安心して取り組むことができます。

業績アップ

従業員数が少ない食品会社では、強みを活かした知的資産経営をした結果、大手ホテルチェーンから定期的に注文が入るようになり、ネット販売にも成功し、営業マンなしで売上を伸ばしました。

会計事務所では、顧客からの紹介が広がり、営業がなくても顧問会社数が増えていき、優秀な従業員も確保できました。

製造業では、経営理念やビジョン、自社の強みの理解が進み、社員がオーナシップをもって仕事に取り組むようになり、自分で考え、行動し、育て合う組織づくりの基盤ができました。

まとめ

中小企業において独自性や競争優位性を築くためには、隠れた強みを詳らかにすることが不可欠です。
経営者が自社の強みを理解し活用することが、企業の持続的な発展に寄与します。

経済産業省が推奨している「知的資産経営」が、まさしく強みを経営戦略に活かすことであり、事業承継の円滑な進行、強みと弱みの的確な把握、ビジョンの確立、価値創造、KGIとKPIの設定、事業価値を高める経営レポートの作成といった手法を通じて、企業は変化する市場に適応し、成長を続けることができるようになります。

経済産業省 知的資産経営のHP

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