知識を学んでも、人は元に戻ってしまう
「これってパワハラになりますか?」
最近、多くの企業でハラスメント研修が行われるようになり、このような質問を受けることが増えました。
ハラスメントの定義や法律を知ることはもちろん大切です。何がパワハラに当たるのかを知らなければ、防ぐことはできません。
しかし、私はこれまで110社以上の組織づくりに関わる中で、一つのことを強く感じています。
知識だけでは、人は変わらない。
研修では「この言い方はハラスメントになる可能性があります」と学びます。研修直後は誰もが気を付けようと思います。
ところが数週間、数か月が過ぎると、忙しさや焦りの中で、以前と同じ言葉や態度に戻ってしまうことが少なくありません。
それは、その人の性格が悪いからではありません。 長年積み重ねてきた考え方や接し方の習慣は、一度話を聞いただけでは変わらないからです。
ハラスメントは「言葉」の問題ではない
例えば、部下がミスをしたとき、
「また失敗したのか。」
「どうしてできないんだ。」
そんな思いが心の中にあるとします。
研修を受けた後であれば、そのまま口には出さないかもしれません。
それでも、表情や声のトーン、ため息や沈黙には、その思いが表れてしまいます。
部下は敏感です。
「怒られている。」
「否定されている。」
そう感じれば、報告は遅れ、相談もしなくなります。
その結果、小さなミスが大きな問題へと発展してしまうこともあります。
つまり、ハラスメントは「言葉」だけの問題ではありません。
その言葉の背景にある考え方や関わり方が、職場の空気をつくっているのです。
「分かっている」のに変われない理由
では、どうすれば思考は変わるのでしょうか。
多くの企業では、
「言動に気を付けましょう。」
「相手を尊重しましょう。」
と伝えます。
もちろん、それは間違いではありません。
しかし、それだけで変われる人は決して多くありません。
私たちも健康診断で「運動してください」と言われます。
それが正しいことは誰でも知っています。
それでも運動を始められない人が多いのは、知識だけでは行動は変わらないからです。
ハラスメントも同じです。
「この言葉は使ってはいけません。」
という知識を増やすだけでは、本当の意味で職場は変わりません。
人は「体験」することで初めて変わる
だからこそ必要なのが、体験することです。
私は研修で、一方的に講義をするだけでは終わりません。
参加者同士で話を聴き合い、お互いの良いところを見つけ、言葉にして伝えるワークを行います。
さらに、指導を受ける側の気持ちを模擬体験するワークも取り入れています。
頭で理解するだけではなく、自ら体験することで、相手への見方や言葉の選び方が自然と変わっていくのです。
すると、多くの方が驚かれます。
「自分では普通に言っていた言葉が、相手にはこんなふうに聞こえていたんですね。」
「指導する側と受ける側では、こんなにも感じ方が違うとは思いませんでした」
「相手の良いところを探しているうちに、自然と見方が変わってきました」
こうした体験をすると、不思議なことが起こります。
相手を変えようとしていた人が、
「まずは自分の関わり方を変えてみよう。」
と思えるようになるのです。
人は、正しいことを「教えられた」ときではなく、自分で「気づいた」ときに変わります。
だから私は、知識を伝えるだけでなく、気づきを生むワークを大切にしています。
一度では変わらない。だから繰り返す
もちろん、一度の研修ですべてが変わるわけではありません。
だからこそ大切なのは、繰り返し実践することです。
新しい関わり方を試し、振り返り、また実践する。
その積み重ねが、一人ひとりの習慣となり、やがて組織の文化になります。
ハラスメント防止の本当の目的
ハラスメントを防ぐために必要なのは、「言ってはいけない言葉・行為」を覚えることではありません。
相手を尊重される側の気持ちを体験し、自分自身の関わり方を見つめ直すこと。
その体験があるからこそ、思考が変わり、言葉が変わり、行動が変わります。
そして、その変化の積み重ねが、誰もが安心して意見を言い、相談し、挑戦できる職場をつくっていくのです。
ハラスメント防止の本当の目的は、「問題を起こさないこと」ではありません。
人を大切にする関わり方が当たり前になる組織をつくること。
私は、それこそが、これからの企業に求められるハラスメント防止だと考えています。


