人間力とは何だろう?

「人間力とは何ですか?」と聞かれると、私もひと言で答えることはできません。

知識が豊富なことでも、話が上手なことでも、誰からも好かれることでもないでしょう。

それでも、これまで多くの社長と接する中で、「この方は人間力のある人だ」と感じる場面がありました。

それは、経営が順調なときよりも、思うような結果が出なかったときや、難しい判断を迫られたときでした。

会社の最終的な判断を担うのは社長です。
社員の意見を聞いたとしても、最後は社長が方針を決め、その結果に責任を負わなければなりません。

一方で、社長になると、率直に意見を伝えてくれる社員が少なくなります。

社員が社長と異なる考えを持っていても、「反対したと思われないだろうか」「ここまで言ってもよいのだろうか」と考えるのは、ある意味で自然なことです。

そのような立場にある社長が、自分自身とどのように向き合うのか。そこに、人間力が表れるのではないかと思います。

売上至上主義から「感謝」へ

以前、ある会社では、売上を最優先する方針を掲げていました。

社員はその方針に従い、一生懸命取り組みました。
しかし、思ったように売上は伸びず、会社を去っていく社員も増えていきました。

その状況に危機感を覚えた社長は、売上至上主義から「感謝」を軸にした経営へと方針を転換しました。

社長が新しい方針を社員に伝える全体会議に、私も同席していました。

社長はいくらでも、売上が伸びなかった理由を挙げられたと思います。

「社員の取り組みが足りなかった」
「現場が方針を十分に理解していなかった」
「経営環境が変わった」

そのように説明することもできたでしょう。

しかし、その社長は社員の前で、自分が出した方針が間違っていたことを認め、率直に謝りました。

私は、その姿に感動しました。

間違いに向き合う姿

自分の判断が間違っていたと認めるだけでなく、それを社員の前で、ここまで率直に伝えられるのかと思ったのです。

社長が社員に謝ることは、簡単ではないでしょう。

自分の間違いを認めることで、社長としての威厳が損なわれるのではないか。
社員から頼りないと思われるのではないか。

そのような不安もあったかもしれません。

しかし、私がその場で感じたのは、まったく逆でした。

自分の判断から逃げず、誰かに責任を押しつけることもなく、社員に向き合う。

その社長の姿が、以前よりも大きく見えました。

人間力とは、いつも正しい判断ができることではないのかもしれません。

間違ったときに、その事実とどのように向き合うのか。自分の非を認め、それを相手に伝えられるのか。

そのような場面にこそ、その人の人間力が表れるのではないか。
私は、その社長の姿から教えられました。

失敗が社長を成長させる

私がこれまで出会った人間力のある社長の多くは、決して順風満帆に経営を続けてきた人だけではありませんでした。

大きな失敗をしたり、業績の悪化を経験したり、信頼していた社員が辞めたりと、さまざまな苦労をしています。

そうした経験を持つ社長の話には、重みがあります。

自分の判断がいつも正しいわけではないこと。
自分一人の力だけでは会社を経営できないこと。

そして、社員や取引先をはじめ、多くの人に支えられていることを、経験を通じて知っているからではないでしょうか。

もちろん、失敗を経験すれば、それだけで人間力が高まるわけではありません。

失敗を周囲の責任にすることもできます。
反対に、自分の判断や行動を振り返り、そこから何かを学ぶこともできます。

人間力を磨くのは、失敗そのものではなく、失敗から何を学び、その後の行動をどう変えたかではないかと思います。

人間力は日常の中に表れる

人間力は、経営の危機や大きな決断のときだけに表れるものでもありません。

以前に話したことを覚えていてくれた。
仕事への感謝を直接伝えてくれた。
忙しい中でも、社員の話を最後まで聞いてくれた。

社員は、そのような日常の小さな出来事から、社長への信頼を積み重ねていくのだと思います。

私自身も、後から振り返って、「もっと相手の話を聞けばよかった」「別の伝え方があったのではないか」と思うことがあります。

経験を重ねるほど、自分の考えが正しいと思い込んでしまうこともあります。

人間力について書きながら、これは私自身にも向けられたテーマだと感じています。

学び続けている社長

人間力を感じる社長には、もう一つ共通点があります。

それは、いくつになっても勉強を続けていることです。

本を読み、研修や勉強会に参加し、ほかの経営者の経験に耳を傾けています。
経営や社会の変化だけでなく、人や組織についても学んでいます。

知識を得るだけでなく、自分の会社に置き換えて考え、実践する。
うまくいかなければ振り返り、またやり方を変える。
自分より若い人や社員の話から、新しいことを学ぶ社長もいます。

経験を重ねても、自分にはまだ知らないことがあると考えているからこそ、学び続けられるのでしょう。

私も、経営者の皆さまと接する中で、多くのことを学ばせていただいています。
社員に率直に謝った社長の姿も、今でも心に残っています。

人間力に、これで完成という地点はないのかもしれません。

失敗から学び、人から学び、自分を振り返る。そして、昨日までの自分より少しでも成長しようとする。

伸びる会社の社長は、最初から特別な人なのではありません。 さまざまな経験を受け止め、学び続ける。その姿そのものが、人間力を磨き続けるということではないでしょうか。