「指示しないと、なかなか動かないんですよ」
ある社長が、ため息交じりにふと漏らした言葉です。

特定の誰か、という話ではありません。
社内全体に、そんな雰囲気を感じていました。

言われたことは、きちんとやる。
でも、自分から動く場面は少ない。

改善の話になると、誰もやろうとしない。
新しいことには、できない理由を言う。
責任の所在が曖昧な仕事は、自然と避けられる。

売上や利益の話よりも
「組織として機能していない」
社長は、そう感じていたのです。

「もっと考えろ」と言っても、社員は動かなかった

社長なりに、これまで何度も伝えてきました。

「もっと考えて仕事をしてほしい」
「主体的に考えてほしい」

でも、社員は大きく変わらない。
むしろ、慎重さが増しているようにも感じていました。

「余計なことはしない方がいい」
「黙っていた方が無難だ」

そんな空気が、いつの間にか会社に根付いていたのかもしれません。

社長が選んだのは、「強制」ではなかった

全社員研修では、いい意見は出る。
しかし、日常の業務では何も変わらない。

そこで社長が次に考えたのは、
全員を一度に変えようとすることではありませんでした。

指名制でもなく、
「手を上げてくれた人と、やってみよう」

そう声をかけたところ、研修に集まったのが七人でした。

評価を上げたい。
将来のことを考えたい。
理由は人それぞれだったと思います。

少なくとも、
「もっと成長したい」
そんな気持ちが、この七人にはありました。

社長は、
「三人でも手を上げてくれればいい」
そう考えていたそうです。

結果として集まった七人と、
腰を据えて向き合うことにしました。

研修で話したのは、仕事の前に「自分の話」

研修で扱ったのは、
すぐに使えるテクニックだけではありませんでした。

社長が、まず話したのは、こんなことです。

「自分は、何のために働いているのか」
「どんな価値観を大切にしてきたのか」
「会社の理念やビジョンと、どこが重なるのか」

最初は戸惑いもありました。

「これまで考えたことがなかった」
「仕事と人生を、結びつけて考えたことがなかった」

でも、この時間を取ったことが、
あとから効いてきます。

「会社のため」では、人は腹落ちしない

研修の途中で、こんな声も出ました。
「会社のために働いているわけではない」

その言葉に、頷くメンバーもいました。

代わりに、こんな問いを重ねていったのです。

「この会社で働くことで、自分は何を得たいのか」
「この仕事は、人生の幸せにつながっているのか」

企業理念やビジョンを、
「会社の言葉」のままにせず、自分の言葉に置き換えていく。

会社の理念と、自分の理念。
その接点を探し、結びつけていく。

そんな作業を、進めました。

仕事を自分ごととして見る

理念や価値観だけで終わらせることはしませんでした。

日々の業務を振り返り、

「どこにムダがあるのか」
「どこを改善すると、何がどう変わるのか」
「売上や利益、人件費は、どうつながっているのか」
「自分の仕事がどう世の中に貢献しているのか」

数字を単なる結果ではなく、
「今後を考える材料」
「改善のヒント」として見ていきました。

「自分の仕事が、会社のどの数字に影響しているのか」

ここが見えたあたりから、
参加者の姿勢が少しずつ変わっていきます。

最後に決めたのは、自分自身の目標

研修の最後に考えたのは、

「これから、自分はどう動くのか」
「仲間と、どのように協力していくか」
「一年後、どんな自分でいたいのか」

誰かに決められた目標ではなく、
自分で目標を決めていきました。

研修を重ねていく中で、
七人の表情が、少しずつ変わっていきました。
発言も、明らかに増えていったのです。

変化は、静かに広がっていった

研修後、劇的な変化が起きたわけではありません。

ただ、
指示を待たずに動く場面が増えたり、
改善の話を七人が社内ですることが多くなったり。

若手への声かけも、増えていきました。

七人の変化を見て、
中堅や若手も、少しずつ変わり始めます。

「自分で考えてもいいのかもしれない」
「動いてもいいのかもしれない」

誰かに言われたわけではなく、
行動が、空気を少しずつ変えていきました。

社長が感じた変化

しばらくして、社長はこう話してくれました。

「社員の行動に、変化の兆しが見えてきた」

会話が増え、相談が多くなり、
自分で考えて動こうとする姿勢が見えてきた。

数字は、あとからついてきます。
先に変わったのは、
社員と、会社に流れる空気でした。

最後に

もし、
「指示待ちが多いな」
と感じる場面があるなら、

「会社をよくしたい」と
手を上げてくれる人と、丁寧に向き合ってみる。

その小さな変化が、
やがて会社全体に広がっていきます。

会社を変えるのは、
ほんの数名からです。