社長とお話をしていると
「社員がもっと自発的に考えてくれたら・・・」「指示したこと以外はやらないんです」「自分だけよければいい」と、ため息まじりにおっしゃることがあります。
社員と社長の視点の違い
「時代が変わったからですかね」とも社長はおっしゃいました。
これも理由の一つかもしれません。
ただ本質的には、その理由は別のところにあると考えています。
それは、社長と社員の視点が全く違うからです。
人間は元来保守的で、慣れていることを継続したがります。
慣れていることならば、頭を使わなくても済むからです。
例えば、ルーチンワークをするのは頭で考えることは多くありません。
身体を使っていると、仕事をした充実感もえられます。
ところが、頭を使うのは楽ではありません。
考えがまとまらなければ、時間だけが過ぎていき、結果が出ないこともしばしばあります。
指示された以外のことをするには、指示されたことにはどんな意味があって、その後に何が必要なのかを自分で考えなければなりません。
もし、考えて行動したことが「余計なこと」だったら、叱られてしまう可能性もあります。
そんなリスクを冒すならば、指示されたことだけやっていた方が楽なのです。
社員はこんな思考をしています。
しかし、経営者は違います。
経営計画のこと、資金繰りのこと、組織のこと、人材教育のこと、取引先のことなど、考えることはたくさんあります。休みの日でも、頭の中から会社のことが離れたことがありません。
経営者は、世の中の動きや会社全体を考えて、未来から現在を見すえています。
これに対して、社員は、自分の担当する狭い担当分野のなかで、過去から現在を考えています。
経営者の未来・全社的視点と社員の過去・限定的視点には、当然そこにギャップが生まれます。
端的に言えば、経営者と社員は思考回路が全く違うのです。
社員と社長の視点をあわせるには?
思考が違っているから、視野も狭くなり、社員がもっている能力も存分に発揮できません。
では、経営者と社員の視点を合わせるには、どうすればいいのでしょうか?
それは、社員が社長と同じ情報を持つようにすればいいんです。
こう言うと「え?」と言われますが、社員の視野が狭くなるのは情報が少ないことも原因の一つです。限定的な情報しかなければ、限定された思考しかできません。
社員の能力を最大限に引き出すには、社長と同じ情報を持っていることが必要です。
ある会社では、売上高に対して粗利益率が低いことが問題でした。
この原因は、売上を上げることを最優先して、値引きしてでも売上を上げる風土があったからです。
ただ、値引きで売上を伸ばすのは、最も安直な方法です。
このような状況になってしまったのは、会社が売上以外の実績数値を社員に教えていなかったことも原因の一つです。
大切な情報として、売上高、粗利益率・額、売上総利益、人件費、営業経費、営業利益までは、全社員が理解をしておく必要があります。
どれだけの売上高で、どれくらいの粗利益高が会社として必要なのかを知っていれば、値引きをするのもためらわれるはずです。
ところが、社長は損益計算書や試算表を全社員に公表するのを嫌がっていました。
社員が知れば他に数字が漏れてしまうかも知れない、そんな危惧が社長にはあったからです。
それでも利益を出すために覚悟を決めた社長は、数字を社員に知らせることにしました。
社長と情報を共有した結果
すると、社員達の表情は変わりました。
「売っている割には儲かっていない」「このままだとボーナスが出ないかもしれない」と営業部員も危機感を覚えたのです。
値引きをしないで売るにはどうしたらよいかを営業部全員で真剣に検討をしたところ、「製品のメリットお客様にもっと伝えよう」「アフターフォローを強化しよう」などの案がでるようになりました。
早速、実行すると、売上は一時的に若干下がったもののすぐに回復し、粗利益額は3%程改善する結果でした。
これ以降、営業の社員は「値引きは必要ない。値引きしなくても売れるから」と180度意識も変わりました。
社長も「数字を公表するのは、自分の成績表を全社員に見せるようでイヤだったけど、全くの杞憂でした。数字がわかったことで、社員が危機感をもって粗利益改善に取り組んでくれた事に感謝をしてるくらいですよ」とおっしゃっていました。
情報を共有するとは、社員を信頼している証でもあります。
社長と同じ情報を共有することが、社員の能力を引き出す方法の一つです。