「以前いた社員は、とてもよく気がつくし、仕事もできたんです。でもね、今の社員ときたら、能力が低くて困っちゃいますよ」と社長が愚痴をこぼしています。
詳しく聞いてみると、「その社員は、指示をすると指示の意義や目的を考えて、一歩先二歩先まで進んで行動するほど優秀だった」と話してくれました。
ただ、その能力は社長や他の幹部が教育した訳ではなく、その社員が元々持っていた資質に寄るところが大きかったようです。
社長は、その社員のおかけで、社員はこうあるべきだという理想像を作りあげていたのです。
この理想像が基準になっているため、社長の理想の80%が出来ている社員でさえも、足りない20%について指摘をしていました。
社員にしてみれば、頑張って成果を上げているのに、出来ない点ばかりを指摘されればいい気持ちにはなりません。
たとえ何も言わなくても、社長の気持ちは、自然に顔に出てしまいます。
社長の気持ちは、自然に顔に出てしまいます。
言葉で伝えなくても、非言語(ノンバーバル)で社長の気持ちは社員に伝わっているのです。
だから、職場は緊張感があるといえばよく聞こえますが、ピリピリとした雰囲気でミスをしないように、空気がこわばっているように感じました。
業績も今ひとつ伸びていませんし、離職率も高くなってきています。
このままではよろしくないと、社長はこの状態をいい方向に変えていきたいとお考えでした。
そこで、社長が成し遂げたい本来の目的を聞いてみました。
「気持ちよく社員に働いてもらって、売上・利益を伸ばすことです」と明快な答えが返ってきました。
会社での社長と社員には考え方に大きな差があります。
社長は365日24時間仕事のことを考えています。
社員は、働くこととプライベートとのワークバランスも大切にしています。
経営者としての社長の立場からすれば、給料を払っている訳ですから、社員には能力を100%発揮して欲しいと考えるのは当然です。
だから足りない20%を要求します。
しかし、社員の立場からすれば、出来ている80%は何も評価しないのに、不足している20%だけを指摘されれば、モチベーションは下がります。
そこで、社長にお願いしたのが、「出来ている80%を評価してください。社員のよい点を見るようにしてください」ということです。
「そうは言ってもねえ、昨日まで出来ない点ばかりを指摘して来た訳だから、急によい点を見ろといわれてもね」というのが社長の本音でした。
それならばと始めたのが幹部研修でした。
思考と感情、そしてコミュニケーションを毎月1回半年間続けました。
当初は、しっくりこないこともありました。今までの経験が邪魔をすることも。
しかし、研修を続けているうちに、社長をはじめ幹部の方々の思考も変わってきました。
研修の効果が出はじめ、社員が「あれ?社長どうしちゃったんですか?」と不思議そうになったこともありましたが、組織は少しずつよい方向へ変化をしていったのです。
日本人の気質かも知れませんが、どうしても悪いところや欠点にばかりに目が向いてしまします。
でも、そればかりだと社員はやる気をなくします。下手をすると社員は全否定されたと感じるかもしれません。
社員は社長や会社に認められることで、自分の存在が肯定されます。
会社にとって必要だと感じられれば、やる気になって、出来ていなかった20%すら出来てしまうのです。
社長がイライラしていたら、社員もイライラします。
社長が笑顔なら、社員も笑顔でいられます。
社長の思考が変われば、組織もいい方向に変わります。