組織が自律型の人材を育て、自律型の組織へと変わっていくために欠かせないのが「人事評価制度」です。ミッション(経営理念)、ビジョン、バリュー(以下MVV)を踏まえて社員がどのように行動し、組織に貢献しているかを評価する重要な制度です。
正しく設計された人事評価制度が、社員の行動と組織の価値観を一致させ、自律的な行動を変えるための強力な後押しとなります。
1. MVVに基づいた評価基準の設定
自律型人材の育成に取り組むためには、人事評価制度をMVVに沿ったものとすることが重要です。
ミッション、ビジョン、バリューは、組織として「何のために存在し、どこに向かうのか」 」を明確に示しますが、この規定に基づいて社員が行動するためには、日々の働きぶりや成果が評価される基準としてMVVを取り入れることが必要です。
以前「顧客中心主義」をバリューに求めた会社では、評価項目に「お客様の期待を超えるための取り組み」が入っていて、社員はお客様の期待をどうしたら超えられるのかを考えて行動します。
「チームワーク」をバリューに加えた会社では、自分さえよければよいと考えて行動しても評価は低くなります。個人プレイよりも「チームの成功に貢献する姿勢」を評価することで、組織全体で協力し合い、目標に向かっていく企業文化が育っていきます。
2. 成果と行動のバランス評価
人事評価においては、「何を達成したら」という成果評価に加えて、「どのように達成するのか」という行動評価も重要視することがポイントです。
自律型組織では、社員が目標を達成するただでなく、組織の価値観(バリュー)に基づいた行動をとることが求められます。行動評価にも重きを置くことで、社員は結果だけでなくそのプロセスも意識して行動するようになり、これこそが、自分で考えて行動する自律型人材の基盤になります。
ある会社では「チャレンジ精神」をバリューにあげていました。どんなに既存の業務で成果を上げたとしても、新しい事業や業務に消極的であれば、決して高い評価はつけません。 逆に、新しい事業に取り組んでいて成果が上がらない場合でも、バリューに沿った行動があった場合には、評価を高くしていました。
3. バリューを行動に:具体的な行動指針の設定
社員が自律的にバリューを体現していくために、行動指針として具体的な行動に落とし込むことが大切です。
「信頼」を重視した組織であれば、他の従業員や顧客から信頼される行動、具体的には「約束を守る」「率直にコミュニケーションを取る」といった行動が評価されます。
具体的な行動指針があることで、社員は「自分に何を期待されているのか」がわかりやすくなり、組織の価値観をベースにした行動が自発的に取れるようになります。
バリューに沿った行動指針があれば、社員はそれに基づいて日々の行動を振り返り、改善をする習慣も生まれます。
4. フィードバックで成長をサポート
自律型人材を育てるためには、評価結果に対するフィードバックも重要です。
特に、フィードバックはただの「報告」ではなく、社員が「自分自身どのように改善すればいいのか」を考えるきっかけになり、自分で振り返り、次のアクションをじっくり考えることで、社員の成長を引き出します。
フィードバックの際に「お客様対応を高く評価した」という結果が伝えられれば、社員は次回以降もその行動を続けたいと感じます。 逆に、「もう少しチームにリーダーシップを発揮して欲しい」とアドバイスをすれば、「次はどうリーダーシップを発揮できるか」と社員に考えさせるようにしてフィードバックをします。
評価は「ただの結果」ではなく、次へのステップにつなげるフィードバックこそが、社員の自主性を育てるのです。
5. 社員の成長と組織の成長を両立させる経営
評価制度を運用する際には、定期的に社員との1on1ミーティングや面談を実施し、組織の価値観と行動の一致を意識させることも効果的です。
これにより社員は「自分の行動が会社に貢献しているか」を実感でき、また、対話を大切にすることで、社員が自主的に目標設定し、行動を改善することで、自律的な成長が促進されます。
さらに、組織が成長し続けるために、評価制度も柔軟に見直していくことが必要です。 変化する市場や組織の成長に合わせ、評価基準や項目を更新していくことで、社員の自主性や行動力を引き出し続けていくことができます。
まとめ
自律型の組織を目指すには、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)に基づいた人事評価制度が必要です。
社員の行動と組織の目指す方向性を一致させることで、組織全体が同じ目標に向かって成長していきます。
社員は「ただ組織で仕事をする人」ではなく「組織に貢献し、自ら成長する存在」として、組織にとって必要な存在として成長していきます。 評価制度は組織の価値観と社員の行動を繋ぐ「成長の架け橋」です。
この架け橋をしっかり築いて、組織も社員も共に成長し、自律型組織として強くしなやかな未来を描くことができるでしょう。