社長の想い
会社には、多くの社員がいます。
そして、多くの人を導くには理念が必要です。会社にとってはそれが経営理念です。
飲食店を複数経営している会社の経営理念は、「お料理とおもてなしでお客様を幸せにする」でした。
この経営理念は、一見すると飲食業であればどこでも通用するように思えます。
しかし、この経営理念の根底には社長の幼少期からの強い思いが込められているのです。
この社長は、農家の六男で幼い頃は、裕福な生活をしていませんでした。
それでも、お祭りなど年に数回だけ美味しい物を食べることができました。
このときは、とても幸せだったのです。
その幸せを多くの人に届けたくて、飲食店で働き、独立をしました。
創業当時から、一人でも多くのお客様に美味しいお料理を召し上がってもらって、お客様に幸せになって欲しいと社長は思っていたのです。
経営理念の大切さ
大手企業である三菱自動車の経営理念に該当する「私たちの指針」を見てみましょう。
・すぐれた品質の個性ある車を創り出そう
・いつもお客様の身になって考え行動しよう
・頭と体を使い協力して会社のために働こう
三菱自動車は、三菱重工から独立した企業です。
そのため、経営理念はなく、三菱重工の理念を参考にして「私たちの指針」を作りました。
せっかく作った「私たちの指針」では、「頭と体を使い協力して会社のために働こう」と自分たちが儲かけるために頑張ろうと宣言してしまっています。
この指針に従えば、上司の指示命令に従うことは大切です。
自社の利益のためならば、上司の命令には逆らえず、不正を隠してもよいと考えてしまうのもうなずけます。
その結果、リコール隠し、池井戸潤氏の「空飛ぶタイヤ」(講談社文庫)でも話題になった横浜母子3人死傷事故、山口トラック運転手死亡事故が立て続けに起きてしまいました。
これではダメだとお考えだったのでしょう、2005年に理念を次のように改めました。
「大切なお客様と社会のために、走る歓びと確かな安全を、こだわりをもって提供し続けます」
社員の心を動かす経営理念
経営理念は、会社の方向性を示すものであり、社員の行動指針となります。
社員が自分で考え、行動する「自律型組織」にとって経営理念はとても重要です。
そして、会社の経営理念は、上の2つの例からも、社長の心の奥底にある思いがこもったものであるべきです。
他社のマネをしても上手くいかないことが多いのは、社長の生きざまや自身のビジョンやミッションが社員に伝わらないからです。
ある社長は、いみじくもおっしゃっていました。
「耳障りのいい言葉を並べて、経営理念を作るんであれば、すぐにできます。
しかし、そんな経営理念は、世間体を考えて上辺をなぞっただけであり、自分自身もしっくりこないし、社員も大切にしようと思わないでしょう。
社長の人生や心の奥底にある思いを反映させた経営理念だからこそ、肚にすとんと落ちるし、社員に対しても経営理念をしっかりと伝えられるからね」と。
飲食店の社長のように、社員の心を動かすのは、心の奥底にある思いが表現された理念なのです。
心の内を真剣に語るのだから、社長の真意や思いが伝わっていきます。
自律型組織をつくる第一歩は、社長自らの生きる目的やビジョンを突き詰めて考えていただくことです。
そこから「経営理念・ビジョン」を創っていきます。
社長自身の「生きる目的やビジョン」が不明確な場合は自身のことを深く振り返っていただく必要があります。
「経営理念やビジョン」がすでにあれば、経営者ご自身の生きる目的やミッション・ビジョンと合致しているかを見つめ直していただくことで、経営理念を腹落ちさせることが出来ます。
社長の生きる目的と経営理念・ビジョンが一致していれば、経営理念を実現することは、社長自身の想いが実現することと同じであり、社長が一番ワクワクできることなのです。