元タレントの中居正広氏に関するトラブル対応を発端としたフジテレビの問題を受け、ハラスメントへの関心が急激に高まっています。
企業の対応一つで、社会的な評価が大きく揺らぐ時代。ハラスメント問題は、企業の存続にも関わる重要な経営課題であると言えます。
企業においてハラスメントが発生した場合、加害者は刑事・民事で責任を問われる可能性があるだけでなく、懲戒処分の対象にもなります。
さらに、被害者の勤務先も労働契約法で定められた「安全配慮義務」や「職場環境配慮義務」に違反していると判断されれば、法的責任を追及されることもあります。
また、ハラスメントが公になることで、企業の社名が公表されるリスクや風評被害の影響も無視できません。
こうした状況を受け、大企業をはじめ中小企業でもハラスメント防止研修の導入が進んでいます。しかし、研修の質や方法によっては、単なる形式的な取り組みに終わり、実際の職場環境改善にはつながらないこともあります。そこで、効果的なハラスメント防止研修のあり方について考えてみます。
形骸化しがちなハラスメント研修の現状
ハラスメント防止研修には主に二つのスタイルがあります。
一つは各自がビデオを視聴するスタイル、もう一つは集合研修で学ぶスタイルです。
ビデオ視聴型は手軽でコストが抑えられる一方で、「受け身の学習」になりやすく、実際の行動変容につながりにくいという課題があります。
また、集合研修でも、講師の話を一方的に聞くだけの形式では、参加者が本当の意味で「自分ごと」として捉えにくく、研修後に職場での実践につながらないことが多いのが現実です。
効果的なハラスメント防止研修のポイント
ハラスメント防止研修を実効性のあるものにするためには、次のような要素を取り入れることが重要です。
1. 参加者が主体的に考えるワークショップ型
講義形式だけでなく、事例を用いたグループディスカッションやロールプレイングを取り入れることで、参加者自身が「考える」機会を増やすことが重要です。
たとえば、実際に職場で起こり得るケースや実際の判例を提示し、「この状況はハラスメントに該当するか?」「適切な対応は?」といった問いを投げかけることで、自分たちの職場に置き換えて考えやすくなり、意識に定着しやすくなります。
2. ハラスメント防止だけでなく、指導法やマネジメントを学ぶ
ハラスメント防止研修は、「何がハラスメントに当たるのか」を学ぶだけでは不十分です。
むしろ、「ハラスメントを起こさないための指導法」「健全なコミュニケーションの取り方」「適切なマネジメント手法」を学ぶことが、より実践的な成果につながります。
例えば、部下を指導する際に「どこまでが適切な指導で、どこからがハラスメントにあたるのか」が分からず、必要な指導ができなくなってしまうケースも増えています。
この問題を解決するためには、「指導とハラスメントの違い」を明確にし、「どのような言い方がパワハラにならず、相手に伝わるか」「どのようなコミュニケーションがチームの信頼関係を深めるか」といった視点を取り入れ、適切な指導の仕方を学ぶ機会を提供することで、ハラスメントを未然に防ぐ環境を作ることができます。
3. 企業文化として定着させる仕組み
一度の研修だけでは、ハラスメント防止の意識が根付くことは難しいため、継続的な取り組みが必要です。例えば、以下のような仕組みが考えられます。
- 定期的なフォローアップ研修の実施
- 社内での相談窓口の設置と活用促進
- ハラスメント関連の事例を共有し、リスク意識を高める
- 上司と部下の間で定期的なフィードバックを行う仕組み作り
これらの仕組みを整えることで、単なる「学び」にとどまらず、職場文化として定着させることが可能になります。
企業の責任としてのハラスメント防止
企業にとってハラスメントの問題は、単なるコンプライアンスの問題ではなく、企業ブランドや従業員の定着率、さらには業績にも直結する重要な経営課題です。
社会全体がハラスメントに敏感になっている今、企業としてどのような取り組みを行うかが、組織の信頼性や持続可能性を大きく左右します。
フジテレビの問題が示すように、一つの対応の誤りが企業のイメージに大きなダメージを与えることもあります。
逆に、ハラスメントを防止するための積極的な取り組みを行い、「健全な職場環境」をアピールできる企業は、優秀な人材の獲得や従業員のエンゲージメント向上にもつながるでしょう。
今後、ハラスメント防止研修は単なる「義務」としてではなく、企業の成長戦略の一環として捉え、より実践的な形で展開していくことが求められます。