「自分で考えて行動してくれたらいいのになぁ」と社長をはじめ、部下を持つ管理職・マネジャーの方なら多くの方が思っていることではないでしょうか?
このような自律型人材がいてくれたら、組織の運営は楽になります。その上、問題意識をもって仕事をしてくれるので生産性もあがります。
しかし、自律型人材を育てていくことが、どれほど大変なことなのか、を部下を持つ方はご存じです。
こんな素晴らしいことをなし遂げたある会社のマネジャーがいます。
決して難しいことをしたわけではありません。
今回は、自律型人材を育てることができたマネジャーが実践した方法をご紹介します。
過去の壁と課題
このマネジャー、以前は「指示したことが何でできないんだ」と部下を怒っていました。
部下をもつ上司なら少なからず、同じような経験しているのではないでしょうか。
小さな失敗に目がいっていては、部下は自分の判断で動こうとはしません。
部下としても、怒られないように「言われたことだけやっていればいいと考える消極的な指示待ち人間」になってしまい、自律型人材の育成は望めません。
しかし、指示待ち人間が多くなるのは、マネジャーにも原因があることが多いのです。
「部下を自分の思い通りに動かしたい」と考えるために、マネジャーは指示と管理に頼ったスタイルになってしまい、部下は自分の頭で考えて行動して怒られるのを避けてしまうのです。
自律型人材を育てるためには、このパターンを変える必要があります。
マネジャーが実践した簡単なステップ
このマネジャーは、コミュニケーション・ワークショップ※で学んだことを仕事に応用してみました。
3つのことを実行してみました。
ステップ1:肯定的フィードバックを増やす
人は認められることによってモチベーションが高まります。
上手くいったことはもちろんのこと、100%の成果を出さなくても、その過程であった小さな成果や努力を認めることが重要です。
このマネジャーがしたことは、「指示したことが何でできないんだ」ではなく、「全部はできなかったけれども、その中でも少しでもできたことは?」など、できた点に目を向けたことです。
これで、部下は「否定されなかった、ちゃんとみてくれている」と感じ、指示したことを達成するためにあらためて取り組むことができるようになります。
ステップ2:オープンなコミュニケーションを実践する
部下にがんばったこと、できたことを個別面談、ミーティングや終礼などで確認します。
個人面談の際には、「どうやったらできた?」「どんな工夫をした?」と肯定的な質問をして深掘りをしました。
また、部下に業務の改善案や気付きを日報に書いてもらっています。業務の改善案や気付きで実行できる案は、考えた人にやってもらうようにしました。
意見を求められ、その案が実際の業務に活きれば、部下は自分の意見が評価されていると感じます。
これは部下にとって大きなモチベーションとなり、自分で考えて行動するようになっていきます。
ステップ3:責任を与え、信頼を示す
業務の改善案等を実行し、成果が上がり、マネジャーから認められるようになると、自分で考えて仕事ができるようになります。
ここまでくれば「これはあなたが得意だから任せるね」と指示することで、部下はその業務に対して細かな指示を出さなくても実行をしてくれるようになります。
また、「困ったことがあったら何でも相談してね」と約束することで、部下は安心して業務に取り組むことができます。
信頼をよせられた部下は、その期待に応えようと努力し、仕事に対しても自信をもって取り組みます。
変化の兆し:モチベーションと生産性の向上
1つのことに自信を持つようになると、不得意だった業務にも積極的にチャレンジするようになります。このようになれば、組織に活力がみなぎってきます。
その結果、指示待ち人間だった部下も、自分で考え、行動する「自律型人材」へと変わり始めます。
このマネジャーが担当するチームでは、売上が1.5倍に増加し、残業時間が1人当たり30時間前後から10数時間に減少しました。さらに、離職率が14%から3%に減少するなどの効果が現れました。
部下が主体的に業務に取り組むことで、イキイキと働き、全体の生産性や効率も大きく改善しました。
そして、マネジャーの仕事量も格段に減って、余裕をもってチーム全体を見ることができ、部下の育成に力を注げるようになったのです。
まとめ:自律型人材の育成は組織全体に利益をもたらす
自律型人材を育てることは、個々人のスキルアップを超え、組織全体がより効率的に、かつ創造的に働けるようになります。
肯定的なフィードバック、オープンなコミュニケーション、明確な責任の委譲は、日々の交流の中で継続的に行われています。
さらに、このステップでチームを変えていく文化を根付かせるためには、組織全体での「コミュニケーション・ワークショップ※」を定期的に行い、自律型人材育成の方法を再確認することが効果的です。
これにより、新しいマネジャーやリーダーもこの文化にすぐに適応し、チーム全体が一丸となって目標に向かって努力できるようになります。
最終的には、自律型人材が育つことで、その人材から新たなリーダーが生まれ、さらに次世代の自立したスタッフを育てるという好循環が生まれます。このようにして、組織は自己循環的に成長を続けることができるのです。
自律型人材を育てることは、すぐに結果が出るわけではありません。
しかし、根気強く取り組むことで、その効果は計り知れません。
今日からでも小さな一歩を踏み出し、部下一人一人が自分のポテンシャルを最大限に発揮できるような環境を整えてみましょう。
それが組織全体の未来を明るく照らすことにつながるでしょう。
※現在「コミュニケーション・ワークショップ」は「自律型人材を育てるワークショップ」に改題をしています。