経営理念がどんなに素晴らしくても、社員一人ひとりが経営理念を理解し、共感、共鳴しなければ絵にかいた餅になってしまいます。
自律型組織を作るときのベースとなる、社員が経営理念を理解、共感・共鳴し、定着させる方法について考えます。
1.経営理念をストーリーで語る
自律型組織を作るときに最も大切なことの1つが、経営理念を社員が理解し、共感、共鳴して、共有をすることです。
そのために、経営理念を繰り返し伝えることも大切ですが、ただ単に経営理念の言葉を述べるよりもっと効果的な方法があります。
社員が経営理念を理解・共感・共鳴、そして共有するためには、社長が経営理念ができた経緯などをストーリーとして語り掛けることです。
ある飲食チェーンの経営理念は「お料理とおもてなしでお客様を幸せにする」でした。
飲食店ならどこでも使えそうな経営理念に思えますが、そこに流れる社長の想いを聞くと独自の経営理念だと納得できます。
この社長は、農家の六男で幼い頃は、裕福な生活をしていませんでした。それでも、お祭りなど年に数回だけ美味しい物を食べられるときには、とても幸せになれたのです。
その経験があったからこそ飲食店で修行をして独立したことや、独立して初めて来店されたお客様が「美味しい」と笑顔になったことがどれだけ嬉しかったか等、経営理念のベースになっている思いを社員に伝えることで、理解・共感・共鳴しやすくなります。
どんな立派な言葉より、社長の根底に流れる思いを伝えることこそが、経営理念が社員に共感し、理解を促します。
社長が本音で話すからこそ、その想いは聞く者に伝わります。
社員の心を動かすのは、社長の心の奥底にある想いが表現された経営理念です。
会社を経営していれば、いいときもあれば悪いときもあります。
どんなときにも社長自身が、ワクワクでき、希望をもって行動に駆り立てる軸が必要です。 その軸となるのが、経営理念なのです。
2.経営理念について考える
社長が経営理念をストーリーとして語れば社員に伝わりやすくなります。
もう一段階進んで、経営理念を深く理解し、共感するには、社員が自分のこととして捉えることが必要です。
そのために、経営理念を社員一人ひとりが自分のこととして考える機会を設けます。
ある製造業の会社で行ったことですが、経営理念を改めて全社員で共有し、理念をベースとして働く社員一人ひとりが会社に誇りを感じ、やりがいを持って働ける会社にするために、全社的なミーティングを行いました。
同じ部署でのミーティングではなく、年齢や部署、勤務地をランダムに組み合わせて7名前後のチームをいくつも作ります。
その席で社員が経営理念について話し合います。
社員一人ひとりが会社に対しての思いや今後どのようにしていきたいか、自分の担当している仕事と経営理念の関連性などを考えて意見交換をしました。
その結果、会社や経営理念に対する理解が深まり、会社に対する姿勢や仕事に対する取り組み方もよい方向へと変わっていきました。
ミーティング後、この席で出た意見をまとめ、全社員の想いのこもった冊子(理念ブック)を作成し、配布したことで、より会社や経営理念への理解と経営参画意識が深まりました。
3.経営理念と社員の価値観を合わせる
経営理念には、社長の人生においての価値観、大切にしていること、成し遂げたいビジョンなどの人生理念を反映させることをおすすめしています。
経営理念と人生理念や大切にしている価値観が一致していれば、経営理念を達成するために、一生懸命に努力することができます。
ところが、社員一人ひとりの価値観は様々です。
経営理念の中に「お客様のため、社会に貢献する」などの要素があったとしても「自分のために働いているし、お金のために働いているから経営理念なんて関係ないや」と思っている社員がいても不思議ではありません。
このように答える社員に人生理念や価値観がないかと言えば、決してそんなことはありません。
今まで考えたことがなかっただけです。
自分の人生理念を考えるために、私どもでは「青春熱中物語」や「人生年表作成」などの研修を行っています。
「人生年表」では、好調と不調を縦軸にとり、横軸に誕生から現在までの年齢をとったグラフを作ります。そのグラフ上に好調、不調を年齢ごとに書いていきます。
好調の時、不調のときにはどんなことがあって、そのときにはどんな気持ちだったのかを書き入れます。すると、どんなときにやる気に満ちて、どんなときに落ち込んでしまうか、がわかってきます。
そして、なぜやる気に満ちていたのか、落ち込んでしまったのか、それぞれの原因を探っていくと、その人の人生で大切にしていることや一生懸命打ち込めることがわかってきます。
その原因こそが人生で大切にしていることであり、人生理念なのです。
人生理念がわかれば、経営理念との共通点も見えてきます。
社員の人生理念と経営理念との共通点を見つけ出せれば、社員の適性ややる気をもって取り組める業務もわかってきます。
以前行った「人生年表作成」研修では、高校時代のクラブ活動から社員の人生理念を見つけることができました。
彼は高校時代、野球部でした。野球部と言っても甲子園常連校ではなく、ごく普通の公立高校の野球部です。
「できたら甲子園に出場したい」と思っていたものの今の野球部のレベルでは無理なことはわかっていました。にもかかわらず、彼は泥まみれになって練習に励んでいたのです。そして、とても充実をしていたと振り返っています。
「なぜハードな練習をしていたのか?」と聞くと
「甲子園には行けないことはわかっていたけど、野球が好きだったんです。チームが一つになって、強いチームに一泡吹かせたいと思っていました。きっと壁が高いほど燃えるんだと思います」こんな答えが返ってきました。
彼の人生理念の中には、「チームで目標に向かってチャレンジするのは楽しい」があることがわかります。
そこで彼には、新規事業の立ち上げや業務の改善などで新たに取り組む業務の担当を任せました。
社員一人ひとりの人生理念を知ることで、経営理念との共通点を見つけ出すことができます。
共通点に気付けば、会社の経営理念を達成することが、自分のためにもなることが理解でき、仕事に対する考え方や熱意も良い方向に変わっていきます。
4.経営理念を定着させる
経営理念を理解・共感・共鳴しても、日々の業務に追われてしまうと経営理念を忘れてしまい、目先の売上・利益だけを追ってしまうことがあります。
大切なことは、経営理念やビジョンに対する理解が深まったら、それを維持し、定着させることです。
繰り返し話すこと以外にも、様々な方法で経営理念を定着させる方法があります。
経営理念を貼り出す
社内の目立つところに、経営理念やビジョンを貼り出すことで定着がはかれます。
名刺に経営理念を印刷している会社もあります。
玄関マットに、ビジョンを入れている店舗もあります。
なかには、トイレの鏡の反対側に経営理念を逆さ文字にして貼ってあり、トイレで鏡を見るたびに経営理念を見られるようにしてある会社もあります。 常に社員の目につく場所に、掲示しておくことで定着化する効果があります。
朝礼・会議・ミーティングで活用
経営理念を朝礼で唱和している会社は多いでしょう。
唱和をした後に、持ち回りで経営理念に則った行動をしたことなどを発表する時間をつくれば、経営理念に沿った行動は多くなります。
会議やミーティングでは、朝礼よりも時間をとることが出来るため、社長が経営理念の根底に流れる思いを話し、経営理念の中にある言葉の意味を繰り返し話すことで、社員に経営理念を啓蒙していけば定着化は進みます。
経営理念の他にも、創業時の思い、自社の商品・サービスの強みなどを語り、社員の理解を深めてから会議を始めます。
さらに、社員の発言に対しても「経営理念から考えるとどうだろうか?」「その商品・サービスは、我が社の独自性になりうるか?」など、常に経営理念を意識させた問いを発することを習慣化すれば、理解がすすみ、定着をしていきます。
経営理念に沿った取り組みをして、顧客に感動を与えたり、業績向上に貢献したりした場合には、会議の席で発表し表彰をすれば、さらに経営理念を社員が大切にします。
社長と経営幹部の行動
社員は、社長や経営幹部の言動をよく見ています。
経営理念では「顧客の満足」が謳ってあるのに、会議では売上や利益のことしか言わないのであれば、社員は社長や経営幹部を信頼できません。
「売上が伸びないのはお客様が満足をしていないのではないか、どうしたらお客様の満足度を今以上に上げて行けるのか?」と問われれば、経営理念を大切に経営していると社員は感じ、浸透をしていきます。
経営理念は立派だけれども、社長や経営幹部が理念とは違った言動をしていれば、部下は「絵に描いた餅だ」と感じて、経営理念を大切にはしません。
社長や経営幹部は、言行一致、率先垂範をして、社員に見本を見せることが、経営理念を浸透させ、定着させることにつながります。
まとめ
経営理念は、社長だけのものではなく、社員一人ひとりが自分のものとしたときに、本当の意味で理解・共感・共鳴ができるようになります。
そして、経営理念を共感・共鳴できるからこそ、経営理念に則って、社員一人ひとりが考え、行動できるようになるのです。
経営理念を社員が理解・共感・共鳴することが、自律型組織を作るためにはとても大切になるのです。